親と同じ過ちをくり返してしまう「世代間連鎖」を断ち切りたい
親と同じ過ちをくり返してしまう負の連鎖は、「世代間連鎖」と呼ばれています。
私の場合、「母と同じことはしたくない」と思っていたのに、母と同じことをしている自分に気づきました。
「世代間連鎖」をどう捉え、どのように断ち切るか。
私の体験を交えてお伝えします。
私は悪い子、弟は良い子
母は、私と弟を比べて、私を叱りつけることがよくありました。
たとえば、私が朝寝坊すると、早起きした弟を引き合いに出して、私を叱ります。
まあ、どの家庭でもよくある光景かもしれませんが、私の母は言葉がキツイ。
ナオミみたいに、朝寝坊するぐうたらな子は、誰からも好かれない!
早起きできる○○(弟の名前)は結婚できても、ナオミと結婚するような人はいない!
ナオミは、みんなから嫌われて、孤独死するのよ!
1歳下の弟。
弟は賢い子だったので、私が怒られる様子をよく見ており、母が嫌がるようなことは、決してしません。
叱られるのは、私ばっかり。
そのため、幼い私は、母が弟だけを可愛がっても、それは当たり前だと思っていました。
弟が良い子で、私が悪い子であることは、火を見るよりも明らかだったからです。
私は、弟に嫉妬のような負の感情を抱くことはありませんでした。
ですが、私だけが叱られる状況は、悲しくて仕方ありません。
自分がダメな人間であることが、幼い私の心に刻印されていきました。
私が、悪い子だから、ママに嫌われるんだ。
いつか、弟みたいな良い子になって、私もママに可愛がられたい。
私なりに必死に努力しましたが、幼い私の切なる願いは、かなうことがありませんでした。
※母が亡くなる直前、弟を褒め、私を非難する言葉を遺したことについては、こちら。
母と同じことをしていた私
母にされて嫌だったことを息子にはしない。
30代半ばで結婚し、息子が生まれてから。
私は、そう心に決め、かなり気を遣って、息子に接していました。
幼い息子を感情的に怒ってしまったときは、冷静になってから謝る。
謝るときも、「お母さんは、仕事で嫌なことがあってイライラしていたから、必要以上に怒ってしまった」と、怒った理由を説明する。
そして、「仲直りしよう」と言って、幼い息子とハグをする。
その一方で、夫の言動に、はらわたが煮えくり返り、夫への罵倒がとまらない。
たしかに、私の夫は、とてもマイペースな人。
私が、仕事を続けながら、家事、育児もこなす、ワンオペの日々を送っていても、気づきもしない。
休日も楽しそうに自分のペースで過ごしている。
そんな夫を、私は「敵」と認識し、夫のささいな言動にイラっとするように。
そのうえ、「夫が悪いから、私が腹を立てるのは当たり前」と、自分を正当化していました。
そんなこんなで、家では夫とケンカばかり。
生きること自体がつらくなり、わらをもつかむ思いで、様々な心理療法を体験し、自分を見つめる機会を重ねていくと。
私は、母と同じことをしている自分に気づきました。
母が弟を可愛がっていたように、一人息子は目に入れても痛くないほどの溺愛ぶり。
母が私をうとましく感じていたように、夫の言動にイラつき、夫を罵倒する。
「母と同じことはしたくない」と思っていたのに、母と同じことをしているなんて。
私は、ひどくショックを受けました。
母から私に引き継がれた「世代間連鎖」
親から子へと引き継がれていく負の連鎖は、「世代間連鎖」と呼ばれています。
人は誰でも、親など身近な人との関係の中で、他者との関わりをはじめ、様々な振る舞いを学んでいきます。
そのため、幼いころに、親と同じような言動を取るのは、ごく自然なこと。
ですが、ほとんどの人が、成長の過程で自分の言動を自覚し、改めていくので、「世代間連鎖」は起こりません。
ところが、母から私へ、自覚されぬまま、引き継がれた行いがありました。
傍から見ると誤った行いでも、自身の心のバランスを保つメリットが潜んでいます。
ただし、怒りをぶつける相手の心が傷つくことには、全く無自覚のまま。
特定の人の前で良い人を演じ、「自分は良い人間。ダメな人間ではない」という感覚にひたる。
私は、一人息子を可愛がることで、「良い母親としての自分」を確認し、安心を得ようとしていました。
自分にとって安心・安全な相手に怒りをぶつけると、少しだけ気が晴れる。
私は、夫に対して行き場のない怒りぶつけることで、自分で自分を攻撃する苦しみを避けようとしていました。
私自身の、そして、私の母の言動を振り返って、気づいたことがあります。
不適切な養育を受けた子どもは、精神的に未熟な部分を残したまま、大人になる。
精神的に未熟な部分が活性化しているときは、自分がしていることに無自覚になりやすい。
そのため、親にされて嫌だったことを、気かぬうちにくり返してしまう。
その負の連鎖が、世代を越えて受け継がれていく。
「世代間連鎖」を断ち切る
「世代間連鎖」を断ち切るためには、どうすれば良いのか。
私なりに、悪戦苦闘、試行錯誤して見出したのは、
自分のしていることを自覚すること。
自分の内側にある精神的に成熟した部分、冷静な部分とのつながりを強めること。
大人げないほど感情的になっている場合。
「自分の中にいる幼い子ども」、いわゆる、「インナーチャイルド」が、心身の指揮権を奪っています。
ある意味、「自分の中にいる幼い子ども」が暴走している状態で、精神的な未熟さが全開になっている。
しかも、度々、子どもが全開になる状態に陥っていれば、自身の言動に無自覚になるのは、当たり前。
ですが、ある程度の年齢になり、様々な経験を重ねていれば。
親から不適切な養育を受け、精神的に未熟な部分が残っているとしても、年齢相応に成熟している部分、冷静な部分が育っています。
そうじゃなければ、社会生活を送れませんから。
そのため、「自分の中にいる幼い子ども」以外の部分、つまり、「年齢相応に成熟した視点をもつ部分」とのつながりを強めれば、
自分を客観視し、自分のしていることを自覚することができる。
自分がもつ「世代間連鎖」について検討し、自分の言動を改善することもできる。
「年齢相応に成熟した視点をもつ部分」とのつながりを強化するために、手っ取り早い方法は。
自分に優しい言葉をかけること。
自分に優しい言葉をかけることで、「自分の中にいる幼い子ども」の暴走を鎮め、心身の指揮権を手放してもらいます。
でもね~、この作業、かなり手間がかかるんですよ。
私の場合。
心理療法などで、自分の内側にある「年齢相応に成熟した視点をもつ部分」とつながりをもつ機会が増えたことで、自分が母と同じことをしていると自覚することができました。
そして、セルフケアの一環として、次のようなことに取り組んでみました。
「自分の中にいる幼い子ども」が感情的になっているとき、その姿をありありとイメージし、言い分を聞き、言い分に共感するように、優しい言葉をかけていく。
その子の嘆きや怒りが鎮まったら、姿を見せ始めた「年齢相応に成熟した視点をもつ部分」と、やり取りする。
私は、自分の内側にある部分をキャラクター化して、名前をつけているので、名前を呼びかけながら、各々の意見を聞く。
頑張ったキャラクターたちが、良い仕事をしてくれたら、「やるじゃん。ありがとう」と声をかける。
「自分の中にいる幼い子ども」の嘆きをおさめ、「年齢相応に成熟した視点をもつ部分」とつながりをもつ機会を増やしていくと。
私自身、少しずつではありますが、一人息子を溺愛し、夫をないがしろにする言動が、緩和されていきました。
※自分の内側を複数のキャラクターとしてとらえると、自分の言動を理解しやすくなります。
※「自分の中にいる幼い子ども」に声をかけるときの具体的な手続きについては、こちらをご参照ください。
「世代間連鎖」を断ち切り、精神的に成熟するための第一歩は、「自覚すること」。
そして、次に、「自分の中にいる幼い子どもに優しい言葉をかけること」。
自分の中に受け入れがたい一面があることに気づくと、心がかなり痛みますが、まあ、それは生みの苦しみということで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。