癒しは人から与えられるものではなく、自分で自分に与えるもの
母から否定的な言葉をかけられて育ち、「自分は要らない人間だ」と信じ込んで生きてきた私。
そんな信じ込みが緩んでいくと、「癒しは自分で自分に与えるものなんだなあ」と実感するようになりました。
今回は、「癒し」について、私の体験を交えて、お伝えします。
苦しみもがく日々
私は、母から否定的な言葉をかけられて育ちました。
失敗すると、なじられる。
母の思い通りにならないと、罵倒される。
何をやっても、弟と比べられ、ダメ出しされる。
思春期を迎える頃には、「私はダメ人間。この世に要らない存在」と感じるようになっていました。
大学合格を機に実家を出て、母から離れて暮らすようになったのだけど。
今度は、私が、自分を否定する言葉を自分自身に投げかけるようになりました。
社会人になると、自分を責める内なる声が、恐ろしいほどに大きくなっていきました。
いやはや、ツラいの、なんの。
うまくいかないことがあると、「無能な人間は、何をやってもダメ!」。
人と関わると、「お前みたいなダメ人間は、人からことごとく嫌われる!」。
自分自身からは、どうあがいても逃れることができません。
剣で切り裂かれるような言葉に、心がズタズタに傷ついていきます。
地獄の業火で焼かれるような苦しみの中で、もがくことしかできないのです。
この苦しい状況から逃れたい。
心穏やかで健やかな日々を味わってみたい。
そう思って、大学に入り直し、心理学を基礎から学びました。
知識を得たうえで、様々な心理療法を実際に体験していきます。
少しずつ気持ちが楽になっていったものの。
「心穏やかで健やかな日々」は訪れませんでした。
「ハコミセラピー」との出合い
「心穏やかで健やかな日々」を切望するのに、得られない。
そんな折に出会ったのが、「ハコミセラピー」。
2015年の夏でした。
「ハコミセラピー」は、「マインドフルネス」という瞑想状態を用いて行われるセラピーです。
「マインドフルネス」は、今ここで起きていることに意識を向けていくことを言います。
ゆっくりと深呼吸をしながら、目をつぶり、「首筋が痛い」「胸が苦しい」など。
今現在、自分に起きていること、気になっていることに意識を向けていくと、あれこれ考える意識状態がトーンダウン。
普段の生活では表に出てこない「無意識の中にあるもの」が、姿を現してきます。
最終的には、私の中にいる小さな子ども(傷ついた子ども。インナーチャイルドとも呼ばれる)が、姿を現します。
母との関係で傷つき、「ママから嫌われたら生きていけない」「やっぱり私は要らない子」と信じ込んでいる子どもです。
「ハコミセラピー」の個人セッション(個人で行うセラピー)では、「無意識の中にあるもの」が、「その時の自分に必要なもの」を提示してくれます。
イメージが展開したり、相手(セラピスト)にしてほしいことや、かけてほしい言葉が出てきたり。
「自分に必要なもの」を得るという過程を経て、「自分は要らない人間だ」という信じ込みが緩んでいきました。
※「ハコミセラピー」について、詳しくは、こちら。
「自分に必要なもの」が移り変わっていく
現在まで、「ハコミセラピー」を8年ほど学び、たくさんの個人セッションを受けてきました。
改めて振り返ると、「自分に必要なもの」が移り変わっていることに気づいたのです。
大きく分けると、以下の3つの時期に分かれています。
ひたすらに滋養をもらう時期
対人恐怖や自己否定が強かった時期。
私の中の小さな子ども、「なおちゃん(幼少期の私の呼び名)」が、してほしいことをしてもらい、かけてほしい言葉をかけてもらいました。
この時期に「自分に必要なもの」を得ると、心が緩み、ほっこりしました。
「ハコミセラピー」では、「ナリッシュメント(子ども時代に満たされなかった体験を与える)」という方法があり、それにあたります。
- 「そのままのあなたでいいんですよ」と、言葉をかけてもらう。
- 膝枕をしてもらい、「なおちゃんは、ママの宝物よ」と言って、頭をなでてもらう。
- 「そのままのなおちゃんが、大好きよ」と、言葉をかけてもらう。
母の実像に気づき、母の愛に気づく時期
滋養となる言葉をかけてもらっても。
「本当のママがしてくれないと、イヤ!」と、私の中の小さな子どもが、駄々をこねる時期がありました。
「本当のママ」とは、私が3~4歳の頃の母。
「そんなの無理でしょ!」と理性は考えます。
でも、私の中の小さな子どもは、決して納得しません。
すると、様々なイメージが展開し、母の実像に気づかされることになります。
母の真の姿を目の当たりにすると、母に対する過剰な期待がなくなっていきました。
- 真っ暗な海の中で、なおちゃんは、母が迎えに来るのをひたすらに待っているが、母は迎えに来ない。
- 母が、狂気じみた怖れにつきまとわれ、狂人のように呪いの言葉を吐いている。
- 母なりに、なおちゃんを愛していたが、母には相手を思いやるゆとりがないため、なおちゃんには爆撃としか感じられなかった。
自分で自分を励ます時期
最終的に、滋養となる言葉をかけてもらうだけでは、ピッタリこない感じになっていきます。
自分の思いに共感してもらう、私自身を鼓舞するような言葉をかけてもらう、といったほうが、良い感じが得られるのです。
この時期に「自分に必要なもの」を得ると、腹の底からエネルギーが湧き上がり、肝が据わったような心持ちになりました。
- なおちゃんが、母への不満を言うと、木霊になって返ってくる。
- なおちゃんが、母への不満を言うと、群衆が「そうだ!」とシュプレヒコールをあげる。
- 「あなたなら大丈夫。何とかなる」と、言葉をかけてもらう。
最近では、日常生活で思い通りにいかないことがあって、ちょっとしょんぼりしたり、不安になったりはするものの、自分を責めることが減りました。
「まあ、何とかなるさ」「やることをやるしかない」と、自分で自分を励ます感じになっています。
「癒し」は自分で自分に与えるもの
傷ついた心が癒されていく過程を振り返って思ったこと。
「癒し」は、人から与えられるものではない。
カウンセリングやセラピーなどで、肯定してもらうこと、優しい言葉をかけてもらうことを、「癒し」ととらえてしまいがちです。
でも、それは違います。
人から優しい言葉をかけてもらうことで、自分を肯定する部分に、栄養を与えてもらっているだけ。
それも、他者(カウンセラーやセラピスト)が必要だと考える栄養ではありません。
私自身(クライエント)が必要だと感じる栄養です。
栄養を与えてもらうと、自分を肯定する部分が育っていき、現実に向き合うことができます。
現実に向き合い、事実を受け入れることができるまで、自分を肯定する部分が育っていくと。
最終的に、自分自身を受け入れ、自分で自分を励ますことができるようになります。
つまり、自分自身を受け入れ、自分自身を励ます行為が、「癒し」なのです。
周りの人が何をしようと、何を言おうと、それだけで癒されることはありません。
周りの人にできることは、当事者が「癒し」を行うことができるまで成長するのを、サポートし、見守るだけ。
だれも他者を癒すことはできません。
「ハコミセラピー」の創始者、ロン・クルツさんの著書に書かれている言葉です。
今の私は、その言葉に「その通り!」と叫んでしまいそう。
自分を癒すことができるのは、自分自身だと痛感しているからです。
今回は、「癒し」について、私の体験を交えてお伝えしました。
私のように自己否定が激しいタイプは、自分自身を受け入れるほどに心が成長するまで、結構な時間がかかります。
焦らず、ゆっくりゆっくりですよ~。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※「ハコミセラピー」の創始者、ロン・クルツさんの著書は、こちら。
ロン・クルツ(著)、高尾威廣・岡健治・高野雅司(訳)(1996)「ハコミセラピー ‐カウンセリングの基礎から上級まで‐」星和書房