原因がハッキリしない不登校は、環境とのミスマッチ
スクールカウンセラーとして、不登校の児童・生徒の相談に携わるようになって、20年。
最近、理由や原因の分からない不登校が増えている印象があります。
今回は、「原因がハッキリしない不登校」について考えてみました。
原因がハッキリしない不登校は、子どもも大人も疲弊する
スクールカウンセラーとして勤務する中で、さまざまな不登校の相談に応じてきました。
ここ最近、増えてきたのが、「原因がハッキリしない不登校」です。
体調不良のため、登校できない日が増えていき、病院を受診しても、体調不良の原因となるような異常が見つからない。
あるいは、学校に行きづらい理由を子どもが口にしても、学校側が対処すると、新たな理由が次々と出てくる。
場合によっては、子ども自身が、「ストレスや、困ったことは、特にない」と言う。
「原因がハッキリしない不登校」の場合、親や教職員は、子どもを理解することが難しくなります。
対策を打つこともできないまま、大海に放り出されたような心境になってしまうのです。
「なんで、学校に行けないの?」
子どもに問いかけるつもりが、責めるような口調になることもあります。
何とかしたいのに、できない気持ちが、いらだちに変わってしまうんですよね。
学校に行けない子どもは、さらに、ツライ思いを抱える。
大人は、どうしたらいいか分からなくなり、行き詰まってしまう。
「原因がハッキリしない不登校」は、大人も子どもも、互いに疲弊していきがちです。
学校に行きたくないと思う子どもは、全体の3~4割いる
学校に行きたくないと思っている子どもは、全体の3~4割もいます。
既にご存知の方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
私は、ある公立小学校に勤務していたとき、そのことを目の当たりにしました。
東京都教員委員会の方針により、東京都の公立学校では、平成26年(2014年)から、特定の学年の児童・生徒全員とスクールカウンセラーが面接を行うことになっています。
「児童・生徒がスクールカウンセラーに相談しやすい環境を整備することにより、いじめの未然防止や早期対応を図る」というのが目的。
「全員面接」と呼ばれており、小学生は5年生、中学生と高校生は1年生が対象です。
私も、勤務していた公立小学校で、5年生全員と面接を実施。
ただ、面接する時間が限られているので、児童の状況を把握しようと、事前にアンケートを行いました。
そのアンケートの中に、「ここ1ヶ月の間に、学校に行きたくないと思ったことがある」という項目を投入。
そして、「とてもそう思う、ややそう思う、どちらともいえない、あまりそう思わない、まったくそう思わない」という5段階で評価してもらったところ。
5年生全体の4分1が、「とてもそう思う」「ややそう思う」に、〇をつけたのです。
5年生との全員面接は、6年間(2017~2022)にわたって行ったので、アンケートも6年分。
ほぼ、同じ結果。
ただ、コロナ禍では、「学校に行きたくないと思ったことがある」と答えた児童の割合が、3分の1に増えました。
「思ったより多い!」というのが、私の最初の印象。
そして、5年生との全員面接において、「学校に行きたくないと思ったことがある」という児童に質問をしてみました。
「学校に行きたくないと思うのは、どんなときですか?」
- めんどうくさいとき
- 眠いとき
- だるいとき
- やる気が出ないとき
- 何となく
「学校に行きたくないときは、どうしていますか?」
- 親に怒られるから、学校へ行く
- 親が行けって言うから、学校へ行く
- 行くぞ~って気合いを入れて、行く
- ゲームをして、気分を上げてから、学校へ行く
ほとんどの児童は、学校に行きたくない理由がハッキリしていません。
そして、「学校には行かなくちゃいけない」と思って、気持ちを切りかえ、登校しているのです。
学校に行きたくない子どもが、こんなにいるのは、たまたまかもしれない。
そう考え、公的な機関が調査したデータがないか、調べてみたところ。
国立成育医療研究センターが行った「コロナ×こどもアンケート」第6回調査報告(2021年)によると、「学校に行きたくない子どもが38%いる」という結果が出たとのこと。
私が、勤務校で行ったアンケートと、同じような結果が得られていたのです。
原因のハッキリしない不登校の背景にあるもの
原因がハッキしない不登校の背景にあるものは、何なのか?
考えてみました。
学校のシステムや環境が、子どもに合っていない
学校に行きたくないと感じている子どもが、全体の3〜4割。
意外に多いのです。
でも、学校に行きたくないと思う子どものほとんどが、ガマンして、頑張って、学校へ行っているから、目立っていないだけ。
では、どうして学校に行きたくないと思ってしまうのか?
カウンセリングで、理由や原因がハッキリしないまま、学校へ行けなくなっている子どもたちの話を、丁寧に聞いていくと。
次のようなことが浮かび上がってきました。
- 興味のない学習や活動に取り組むのがツライ。
- 勉強をすることに意味が感じられない。
- 「みんなのペース」で行動するよう求められるのがキツイ。
- 人と違ったことをすると、先生やクラスメイトから注意されるのがツライ。
- 気の合う人がいない。
- 気の合わない人、趣味の合わない人と、やり取りするのがキツイ。
- 先生やクラスメイトの声がうるさい。
多くの大人は、「わがまま」と片づけてしまうかもしれません。
でも、生まれもった特性や、育った環境などによって、自分のペースや価値観、感性が、学校の当たり前とは違っているタイプの子どもがいるのです。
一斉授業、座学がメインの学習、集団行動、決められたスケジュールでの生活、暗黙のルール。
学校のシステムにおいては、当たり前になっていることばかり。
でも、全体の3~4割の子どもが、「学校の当たり前」にフィットしないのです。
学校のシステムとは合わないペース、価値観、感性をもっている子どもたち。
こうした子どもたちは、たいていの場合、自分とは合わない学校のシステムの中で、何とか頑張っています。
でも、ほんのちょっとした環境の変化によって、負担が大きくなると、ガマンや頑張りがきかなくなってしまうのです。
たとえば、
校長の交代などによって学校の方針や雰囲気が変わる。
入学した学校の校風が合わない。
相性の悪い教員やクラスメイトと一緒になってしまう。
など。
つまり、理由や原因がハッキリしない不登校は、「学校のシステムに合わない子どもが、負荷の増した環境に置かれてしまい、ガマンや頑張りがきかなくなってしまったこと」によって生じているのです。
クラスにいる子どものうち、3人に1人は、「原因がハッキリしない不登校」になる要素を抱えていると言っても、過言ではありません。
社会的な価値観の変遷が影響する
学校制度ができた頃から、「学校が好きじゃないなあ」と思っていた子どもたちは、同じぐらいいたはず。
ただ、ひと昔前は、世の中全体で、「学校に行かせてもらえるのは、ありがたいこと」、「学校で勉強に励めば、幸せになれる」といった価値観が強く、それが子どもの背中を押していたのです。
世間が、「学校は良いところ」という暗示を、子どもたちにかけていたようなものです。
ところが……。
高度成長期を経て、「学校で勉強に励めば、幸せになれる」という価値観が崩れる。
コロナ禍での休校、分散登校、オンライン授業の普及を経て、「学校は毎日行くべきところ」という価値観が揺らぐ。
つまり、学校へ行くよう子どもの背中を押す、世間の力が弱くなった昨今。
もともと学校のシステムに合わず、ひそかに苦戦してきた子どもたちは、「学校に行きたくない」と、表明しやすくなってきたのです。
原因がハッキリしない不登校への対処
究極の解決策は、「学校のシステムを、どのような子どもにも合うように、根本から変えること」。
でも、これは、個人の力では、いかんともしがたい。
そのため、「学校側ができ得る範囲で、子どもに合った環境に近づける」ということが、次善の策。
それが難しければ、「子どもに合った環境の学校を選ぶ」。
実際、「原因がハッキリしない不登校」になったものの、自分にフィットした環境に出合った子どもたちが、生き生きと学校生活を送っている姿を見聞きしています。
とはいえ、子どもに合った環境を見い出すことは、なかなか骨が折れます。
なぜなら、その子に合った環境であるか否かは、実際に体験してみないと分からないからです。
それに、「運」も大きな要因となります。
子どもに合った環境は、教職員、クラスメイトなど、人とのめぐり合わせも、大きく影響するからです。
そのため、合わない学校のシステム、合わない環境でも、何とか踏ん張っていく力を、子どもたちに身につけてもらうよう働きかけていくのが、今の不登校対策であるように思われます。
具体的な手立ては、子ども自身の個性や、その子どもの置かれた環境によって違います。
でも、肝となるのが、次の2つ。
「学校は行かなければならないところ」という価値観を手放す
大人も、子どもも、「学校は行かなければならないところ」という価値観を、そっと手放しましょう。
今の学校システムが、そもそも、すべての子どもに合ったものではないのです。
「たまたま、今の学校システムや環境に合わないだけ」
そう考えると、大人は、気が楽になります。
気が楽になると、視野が広がり、手立てが見えてきます。
「行けるときに学校へ行く、ということから始めればいいかな」と思えるようになるかもしれません。
今、子どもが通っている学校へのこだわりがなくなり、子どもに合った学校を探し始めるかもしれません。
そして、大人が気楽になると、子どもの気持ちも軽くなります。
家にいるときに、自分の好きな活動を始めるかもしれません。
「まあ、ダメ元という感じで、ちょっとトライしてみようか」と、登校する気になるかもしれません。
大人が子どもを信頼する
大人の側は、「この子は、この子の人生を生きていくから、何とかなる」と信頼しましょう。
周りの大人、特に親から信頼された子どもは、ホッとします。
安心して、気が緩むと、「自分は何が嫌だったのか。これから、どうしたいのか」が見えてくることがあります。
「子どもがどうしたいと思っているか」ということを起点として、具体的な手立てを考えていきましょう。
最終的に、子ども自身に、「自分の人生を、自分なりに生きていく」という覚悟が定まると、何とでもなります。
今回は、原因のハッキリしない不登校について、私が考えていることをお伝えしました。
「不登校」には、実にさまざまな要因が絡み合っており、私がお伝えしたことは、ほんの一側面に過ぎません。
それでも、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。