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原因がハッキリしない不登校は、環境とのミスマッチ

2023年10月5日

スクールカウンセラーとして、不登校の児童・生徒の相談に携わるようになって、20年。

最近、理由や原因の分からない不登校が増えている印象があります。

今回は、「原因がハッキリしない不登校」について考えてみました。

 

原因がハッキリしない不登校は、子どもも大人も疲弊する

スクールカウンセラーとして勤務する中で、さまざまな不登校の相談に応じてきました。

ここ最近、増えてきたのが、「原因がハッキリしない不登校」です。

 

体調不良のため、登校できない日が増えていき、病院を受診しても、体調不良の原因となるような異常が見つからない。

あるいは、学校に行きづらい理由を子どもが口にしても、学校側が対処すると、新たな理由が次々と出てくる。

場合によっては、子ども自身が、「ストレスや、困ったことは、特にない」と言う。

 

「原因がハッキリしない不登校」の場合、親や教職員は、子どもを理解することが難しくなります。

対策を打つこともできないまま、大海に放り出されたような心境になってしまうのです。

 

「なんで、学校に行けないの?」

子どもに問いかけるつもりが、責めるような口調になることもあります。

何とかしたいのに、できない気持ちが、いらだちに変わってしまうんですよね。

 

学校に行けない子どもは、さらに、ツライ思いを抱える。

大人は、どうしたらいいか分からなくなり、行き詰まってしまう。

 

「原因がハッキリしない不登校」は、大人も子どもも、互いに疲弊していきがちです。

 

学校に行きたくないと思う子どもは、全体の3~4割いる

学校に行きたくないと思っている子どもは、全体の3~4割もいます。

既にご存知の方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

私は、ある公立小学校に勤務していたとき、そのことを目の当たりにしました。

 

東京都教員委員会の方針により、東京都の公立学校では、平成26年(2014年)から、特定の学年の児童・生徒全員とスクールカウンセラーが面接を行うことになっています。

「児童・生徒がスクールカウンセラーに相談しやすい環境を整備することにより、いじめの未然防止や早期対応を図る」というのが目的。

「全員面接」と呼ばれており、小学生は5年生、中学生と高校生は1年生が対象です。

 

私も、勤務していた公立小学校で、5年生全員と面接を実施。

ただ、面接する時間が限られているので、児童の状況を把握しようと、事前にアンケートを行いました。

 

そのアンケートの中に、「ここ1ヶ月の間に、学校に行きたくないと思ったことがある」という項目を投入。

そして、「とてもそう思う、ややそう思う、どちらともいえない、あまりそう思わない、まったくそう思わない」という5段階で評価してもらったところ。

 

5年生全体の4分1が、「とてもそう思う」「ややそう思う」に、〇をつけたのです。

5年生との全員面接は、6年間(2017~2022)にわたって行ったので、アンケートも6年分。

ほぼ、同じ結果。

ただ、コロナ禍では、「学校に行きたくないと思ったことがある」と答えた児童の割合が、3分の1に増えました。

 

「思ったより多い!」というのが、私の最初の印象。

 

そして、5年生との全員面接において、「学校に行きたくないと思ったことがある」という児童に質問をしてみました。

 

「学校に行きたくないと思うのは、どんなときですか?」

  • めんどうくさいとき
  • 眠いとき
  • だるいとき
  • やる気が出ないとき
  • 何となく

 

「学校に行きたくないときは、どうしていますか?」

  • 親に怒られるから、学校へ行く
  • 親が行けって言うから、学校へ行く
  • 行くぞ~って気合いを入れて、行く
  • ゲームをして、気分を上げてから、学校へ行く

 

ほとんどの児童は、学校に行きたくない理由がハッキリしていません。

そして、「学校には行かなくちゃいけない」と思って、気持ちを切りかえ、登校しているのです。

 

学校に行きたくない子どもが、こんなにいるのは、たまたまかもしれない。

そう考え、公的な機関が調査したデータがないか、調べてみたところ。

 

国立成育医療研究センターが行った「コロナ×こどもアンケート」第6回調査報告(2021年)によると、「学校に行きたくない子どもが38%いる」という結果が出たとのこと。

私が、勤務校で行ったアンケートと、同じような結果が得られていたのです。

 

 

原因のハッキリしない不登校の背景にあるもの

原因がハッキしない不登校の背景にあるものは、何なのか?

考えてみました。

学校のシステムや環境が、子どもに合っていない

学校に行きたくないと感じている子どもが、全体の3〜4割。

意外に多いのです。

でも、学校に行きたくないと思う子どものほとんどが、ガマンして、頑張って、学校へ行っているから、目立っていないだけ。

 

では、どうして学校に行きたくないと思ってしまうのか?

 

カウンセリングで、理由や原因がハッキリしないまま、学校へ行けなくなっている子どもたちの話を、丁寧に聞いていくと。

次のようなことが浮かび上がってきました。

 

  • 興味のない学習や活動に取り組むのがツライ。
  • 勉強をすることに意味が感じられない。
  • 「みんなのペース」で行動するよう求められるのがキツイ。
  • 人と違ったことをすると、先生やクラスメイトから注意されるのがツライ。
  • 気の合う人がいない。
  • 気の合わない人、趣味の合わない人と、やり取りするのがキツイ。
  • 先生やクラスメイトの声がうるさい

 

多くの大人は、「わがまま」と片づけてしまうかもしれません。

でも、生まれもった特性や、育った環境などによって、自分のペースや価値観、感性が、学校の当たり前とは違っているタイプの子どもがいるのです。

 

一斉授業、座学がメインの学習、集団行動、決められたスケジュールでの生活、暗黙のルール。

学校のシステムにおいては、当たり前になっていることばかり。

でも、全体の3~4割の子どもが、「学校の当たり前」にフィットしないのです。

 

学校のシステムとは合わないペース、価値観、感性をもっている子どもたち。

こうした子どもたちは、たいていの場合、自分とは合わない学校のシステムの中で、何とか頑張っています。

でも、ほんのちょっとした環境の変化によって、負担が大きくなると、ガマンや頑張りがきかなくなってしまうのです。

 

たとえば、

校長の交代などによって学校の方針や雰囲気が変わる。

入学した学校の校風が合わない。

相性の悪い教員やクラスメイトと一緒になってしまう。

など。

 

つまり、理由や原因がハッキリしない不登校は、「学校のシステムに合わない子どもが、負荷の増した環境に置かれてしまい、ガマンや頑張りがきかなくなってしまったこと」によって生じているのです。

クラスにいる子どものうち、3人に1人は、「原因がハッキリしない不登校」になる要素を抱えていると言っても、過言ではありません。

 

社会的な価値観の変遷が影響する

学校制度ができた頃から、「学校が好きじゃないなあ」と思っていた子どもたちは、同じぐらいいたはず。

ただ、ひと昔前は、世の中全体で、「学校に行かせてもらえるのは、ありがたいこと」、「学校で勉強に励めば、幸せになれる」といった価値観が強く、それが子どもの背中を押していたのです。

 

世間が、「学校は良いところ」という暗示を、子どもたちにかけていたようなものです。

 

ところが……。

高度成長期を経て、「学校で勉強に励めば、幸せになれる」という価値観が崩れる。

コロナ禍での休校、分散登校、オンライン授業の普及を経て、「学校は毎日行くべきところ」という価値観が揺らぐ。

 

つまり、学校へ行くよう子どもの背中を押す、世間の力が弱くなった昨今。

もともと学校のシステムに合わず、ひそかに苦戦してきた子どもたちは、「学校に行きたくない」と、表明しやすくなってきたのです。

 

原因がハッキリしない不登校への対処

究極の解決策は、「学校のシステムを、どのような子どもにも合うように、根本から変えること」。

でも、これは、個人の力では、いかんともしがたい。

 

そのため、「学校側ができ得る範囲で、子どもに合った環境に近づける」ということが、次善の策。

それが難しければ、「子どもに合った環境の学校を選ぶ」

実際、「原因がハッキリしない不登校」になったものの、自分にフィットした環境に出合った子どもたちが、生き生きと学校生活を送っている姿を見聞きしています。

 

とはいえ、子どもに合った環境を見い出すことは、なかなか骨が折れます。

なぜなら、その子に合った環境であるか否かは、実際に体験してみないと分からないからです。

 

それに、「運」も大きな要因となります。

子どもに合った環境は、教職員、クラスメイトなど、人とのめぐり合わせも、大きく影響するからです。

 

そのため、合わない学校のシステム、合わない環境でも、何とか踏ん張っていく力を、子どもたちに身につけてもらうよう働きかけていくのが、今の不登校対策であるように思われます。

 

具体的な手立ては、子ども自身の個性や、その子どもの置かれた環境によって違います。

でも、肝となるのが、次の2つ。

 

「学校は行かなければならないところ」という価値観を手放す

大人も、子どもも、「学校は行かなければならないところ」という価値観を、そっと手放しましょう。

今の学校システムが、そもそも、すべての子どもに合ったものではないのです。

 

「たまたま、今の学校システムや環境に合わないだけ」

 

そう考えると、大人は、気が楽になります。

気が楽になると、視野が広がり、手立てが見えてきます。

「行けるときに学校へ行く、ということから始めればいいかな」と思えるようになるかもしれません。

今、子どもが通っている学校へのこだわりがなくなり、子どもに合った学校を探し始めるかもしれません。

 

そして、大人が気楽になると、子どもの気持ちも軽くなります。

家にいるときに、自分の好きな活動を始めるかもしれません。

「まあ、ダメ元という感じで、ちょっとトライしてみようか」と、登校する気になるかもしれません。

 

大人が子どもを信頼する

大人の側は、「この子は、この子の人生を生きていくから、何とかなる」と信頼しましょう。

 

周りの大人、特に親から信頼された子どもは、ホッとします。

安心して、気が緩むと、「自分は何が嫌だったのか。これから、どうしたいのか」が見えてくることがあります。

 

「子どもがどうしたいと思っているか」ということを起点として、具体的な手立てを考えていきましょう。

 

最終的に、子ども自身に、「自分の人生を、自分なりに生きていく」という覚悟が定まると、何とでもなります。

 

 

今回は、原因のハッキリしない不登校について、私が考えていることをお伝えしました。

「不登校」には、実にさまざまな要因が絡み合っており、私がお伝えしたことは、ほんの一側面に過ぎません。

 

それでも、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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