母の激烈な愛情を知る【私が自分を生きるまで⑰】
母から否定的な言葉をかけられて育ち、「自分は要らない人間だ」と信じ込んで生きてきた私。
「自分を生きる」ために、努力を重ねていきます。
悪戦苦闘、試行錯誤の末。
私には受け取りがたい形ではあったものの、母が私に愛情を注いでくれていたと、知ることになりました。
母の最期の言葉に衝撃を受けながらも、心を整える
「ナオミは、バカで、のろまで、肝心な時に役に立たない」
それが、私に対する母の最期の言葉でした。
弟のことは褒めちぎり、妹の将来を案じていたのに、私だけ……。
小さい頃から失敗ばかりで、しょっちゅう母に怒られていた私。
だからこそ、「いつか母に認めてほしい」と思い、私なりに頑張ってきたのです。
母が亡くなっただけでも悲しいのに、私だけ否定されて終わるなんて、悲しすぎる。
そんな思いに凝り固まってしまいます。
とはいえ、日常生活を営んでいくために、ショックを引きずる訳にはいきません。
必死の思いで、自分の気持ちを整えていきました。
母の最期の言葉は、「だれかに認めてもらうのではなく、自分で自分を認めることが大切」という母からのメッセージだったんだ。
最終的に、そんな考えに落とし込み、心のバランスを整えたのです。
そして、自分を卑下しないよう、毎日、お風呂に入りながら、「慈悲の瞑想」の言葉を唱える。
努力を重ねた結果、母の死後の手続きも含め、日常生活をこなしていくことができました。
※母の最期の言葉を受けながら、何とか自分の心を整えた詳細については、こちら。
※「慈悲の瞑想」を毎日行ったことについては、こちら。
私を認めてくれる優しい母のイメージは、フィットしない
表面的には、滞りなく、日常生活を送ることができました。
ですが、
やっぱり、母に認めてほしかった!
自分で自分を認めることなんて、できない!
そんな思いが、じわじわと広がっていきます。
自分で自分を認めるために、母から与えられた試練を乗り越えるんだ!
そう自分に言い聞かせ、自分の思いを封じ込めました。
そんな折、私が所属している「ハコミセラピーの団体(JHEN)」で、スペシャル企画ワークショップが行われました。
カナダ人のシニアトレーナー、ジョージア・マービンさんをゲスト講師に迎えてのワークショップ。
※「ハコミセラピー」とは、「マインドフルネス」をベースに、心と身体の両方に働きかけるセラピーです。
※「マインドフルネス」とは、ゆっくりと深呼吸をして、目をつぶり、「今、この瞬間」に起きていることに意識を向けていくことです。
コロナ禍ということもあり、オンラインでの開催。
テーマは、「人との関係性」。
ワークショップでは、「マインドフルネス」の状態になり、自分の中で起きてくることを、1つ1つ丁寧にとらえていきます。
身体の感覚、感情、考え、イメージ。
「マインドフルネス」の状態が深まったとき、ジョージアさんが、参加者に対して、次のような言葉をかけました。
あなたにとって大切な人が、あなたに近づいてきます。
そして、あなたに必要なものを与えます。
すると、私の中に、イメージが展開されました。
3~4歳くらいの私が、しゃがみこんでいる。
20代半ばの若い母が、私の後方から、ゆっくりと私に近づいてくる。
小さな私のとなりに座った母。
「ママは、なおちゃんのことが、大好きよ」
そんな風に言って、私の頭をなでてくれる。
小さな私が切望していた体験です。
私は、ずっと得られなかったものが手に入ったような喜びで、うちふるえます。
涙もこぼれます。
満たされた気持ちで、それからの日々を過ごしました。
ところが、1ヶ月も経たないうちに、私の中の批判的な部分が、ムクムクとふくれあがってきます。
そんなイメージは、嘘っぱち。
私の母が、そんな優しい言葉を言うはずがない。
私が求めている幻想に過ぎない。
ぬか喜びだったなあ。
そんな思いが駆け巡り、私を認め、優しく頭をなでてくれる母のイメージは、あっという間に効力を失いました。
母の激烈な愛情というイメージは、フィットした
踏ん張り、頑張り、ギリギリのところで、自分を保っていた私。
自分の心を保つために、さらなる秘策を得たい!
そんな思いから、「ハコミセラピー」以外の講座にも、意欲的に参加しました。
コロナ禍で、オンラインの講座が主流だった時期。
参加しやすかったこともあり、憑りつかれたように受講しまくりました。
自分や相手の強みを活かす講座。
無意識にアプローチして人生を変えるというセラピーの講座。
トラウマを治療する技法を学ぶ講座。
意欲的に生きることをサポートするコーチングの講座。
トラウマを糧として自分を生きるためのコーチングの講座。
正直なところ、得られるものは、ありませんでした。
それでも、諦めることなく、「自分にとって必要なものを追求し、心の平穏を得る」というセラピーの講座に参加。
2人組でセラピーの練習をする際、私のお相手の方が、「セラピストの資格をもっています。どんなものを出してきても、大丈夫ですよ」と、声をかけてくれました。
その言葉を聞いて、私の中にずっと閉じ込められていた「猛獣」が解き放たれます。
「あなたにとって、必要なものは?」という問いかけ。
私の中に、他の講座で出会った、感じの悪い参加者たちを、惨殺するイメージが展開される。
お相手の方は、驚愕の表情。
そして、「ちょっとお待ちください。主催者と話し合ってきます」を、くり返す。
私は、異常者扱いされているような心持ち。
お相手の方が、主催者の意見を聞いて、一生懸命に働きかけてくれますが、私の心は荒れ狂います。
最終的に、外国人の著名な講師(セラピスト)に、直接、セラピーをしてもらう、という展開になりました。
外国人のセラピストの誘導で、無意識を探っていくと、イメージが浮かんできました。
天空に浮かぶ大きな白い光の玉。
亡くなった母の魂です。
そこから、白い光の筋が流れ星のように流れ落ちてくる。
落ちてきた光が地面にぶつかると、ぶつかった地点が明るく輝き、母の声が聞こえてきます。
ナオミはだらしないから、一生結婚できずに孤独死する。
ママの言うことが聞けないなら、落ちるところまで落ちて、地獄を見なさい。
ナオミは、バカで、のろまで、肝心な時に役に立たない。
これまでは、押しつけがましくて、言葉がきつくて、言われると嫌だった言葉ばかり。
でも、地面にぶつかって弾け飛ぶ光と一緒に、言葉に込められた母の思いが伝わってくるのです。
ナオミには、ちゃんとした子になって、結婚して幸せになってほしい。
ママの言うことを聞いて、ツラい思いをせずに、幸せに暮らしてほしい。
ナオミを残して死ぬのは、心配でならない。
母の思いは、ものすごい数の流れ星となって、私の行く先々に降り注ぎます。
流れ星が落ちた地点が、次々と明るく輝いていく。
最終的に、光が地球全体を包み込むほどに。
ああ、母は私のことを、本当に大切に思ってくれていたんだ。
ただ、愛情が強すぎるのと、伝え方がハードだから、私には伝わりづらかったんだ。
流れ星や隕石に当たったら、相当痛いからね。
おりこうさんな私からではなく、私の中の「猛獣」から絞り出されたイメージ。
驚くほど、私の気持ちにフィットし、心の中に染みこんでいきました。
母の激烈な愛情が、リアルに感じられ、思わず、涙。
「私はこのままでいいんだ」という思いを、感じることができました。
「マインドフルネス」の状態になると、意識レベルが下がっていき、無意識に潜んでいるものが前面に出やすくなります。
今回は、「物事を理性的に捉えて処理しようとする私」「小さくて純粋な私」を押しのけて、「母の毒をくらいながらも、しぶとく生き抜いてきた、荒ぶる私」が、自分の心を保つために必要なものをつかみとった感じです。
心の問題の解決策は、人から与えられるものではなく、自分の中から出てくるものだと、痛感しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
続きはこちら。母の激烈な愛情に気づいたことで、父の愛情を素直に受け入れることができるようになりました。
※今回の記事は、天狼院書店のメディアグランプリに掲載された文章を、大幅に加筆修正したものです。